「先生のお心は女なんかにわかってたまるけえ!」 中川得夫(第22集/P.90)
人情親父への転落
海原雄山とは、そもそもが過剰なほど厚い人情を持て余し悩乱する人物なのであるが、やがて、ただでさえ危うかった愛の隠蔽に限界が到来することになる。栗田ゆう子の存在である。海原は、栗田ごときに手玉をとられるほど矮小化するのである。
第27集/第2話「究極の披露宴」
山岡との対決を固持する海原に対して、単身で美食倶楽部に乗り込んだ栗田が「今度の対決がなくなると、山岡さんが海原さんに勝つ機会がひとつ減るので困ります!」(P.40)とのたまい、「な、なに!私が士郎に負ける!」(P.40)と海原を当惑させる。
海原がはじめて驚きの顔を見せたエピソードとして、この回は永遠に記憶されるべきであろう。
また次のページを見ると栗田が山岡に参ってる様子を察した海原が「ふ......士郎めが......」(P.41)と微笑みながらつぶやいている。
第32集/第5話「新・豆腐勝負」
海原が山岡に一本捕られてしまうお話である。「私は少なくとも勝ったとはいえんな」(P.202)と呟きながら晩酌をし、「士郎の奴めが......」(P.202)と寂しそうにつぶやく海原の姿には、キャラクターとして下り坂にさしかかっている彼自身の立場が投影されている。
第34集/第5話「サラダ勝負」
魯山人の伝記を執筆中の海原が栗田に協力を求めるエピソードが出てくる。助力に礼を言う海原に対して彼女は「海原雄山氏に、そんなやさしい言葉をかけて頂くなんて、思いもよらなかった」(P.175)と発言する。すると海原は「む......」(P.175)と照れてしまう。
第35集/第5話「日米コメ戦争」
栗田の強引な言動に「なんとっ...」(P.176)と『美味しんぼ』史上に残る最大の驚愕を見せる。
第45集/第5話「グルメごっこ」
魯山人に関する伝記執筆の協力の見返りを栗田に迫られ「うぬぬっ」と困り果てる。
結語
以上、駆け足で見てきたが、この愛らしい矮小化は、殊に山岡と栗田の結婚式前後には最愛の息子との和解までも急速に進んだこともあって、酸鼻を究めてしまう。第48集/第6話「団欒の食卓」では、海原をも巻き込んだ山岡家の家族団らんが始まってしまい、地獄絵図の様相だ。
だが、山岡に対して自己の感情を隠さなくなりつつあった海原には、また別の試練が待ち受けつつあった。新たなる伝説の幕が切って落とされるのである。
第二部へ続く
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