70年代型刑事ドラマの悲惨な世界   『太陽にほえろ』と『俺達の勲章』


70年代前半のアメリカは荒廃の中にあった。数多くの映画では、主人公達が様々な挫折を経験したあげく朽ち果てていった。

いっぽう同じころ日本においては、社会から疎外されやむを得ず犯罪を起こし、最後には決まって悲惨な目に遭う若者達が、焦燥感あふれる表情で刑事ドラマの中をかけずり回っていた。

本稿の目的は、そうした不幸な青年達が特に跋扈しまくった『太陽にほえろ!・ジーパン編』と『俺達の勲章』を取り上げ、薄幸さが爆発しうらぶれにうらぶれまくった70年代の重苦しさ(=素晴らしさ)を堪能することにある。


 『太陽にほえろ! ジーパン編』 ('73〜'74)

ジーパン編における「不幸な若者」エピソードには、以下の4つの類型が存在する。

「若手刑事VS不幸な若者・バッドエンド型」
「若手刑事VS不幸な若者・ハッピーエンド型」
「中年刑事VS不幸な若者・バッドエンド型」
「中年刑事VS不幸な若者・ハッピーエンド型」

「若手刑事・バッドエンド型」は、「不幸な若者」エピソードの王道をいく作品群のことであり、本稿で取り上げたお話の多くはこれにあたる。例えば、ジーパン刑事が犯罪に走った不幸な若者に同情したりするのだが、結局はその若者を射殺するはめになってしまうといったひどい情景が、そこで展開される。端的に言ってしまえば、不幸な若者が最後に死んでしまうというのが、バッドエンド型の特徴である。

「若手刑事・ハッピー型」は、若手刑事の説得が成功し、不幸な若者が一から人生をやり直そうとする人情話のことである。後述する「第73話 真夜中に愛の歌を」がその代表的な作品である。また同じジーパン編であれば、島刑事の同僚警官が暴走する「第105話 この仕事が好きだから」なども典型的な「ハッピー」型である。

ハッピーエンド型であれバッドエンド型であれ、「若手刑事VS不幸な若者」エピソードでは、「大人(=社会)に対する若者の怒り」が扱われる場合が多い。一方で「中年刑事VS不幸な若者」エピソードでは、「若者に対する大人の苛立ち」がクローズアップされる。そのうちハッピー型においては大人と若者が和解する人情話が爆発する。逆にアンハッピー型では、暴走した若者が自滅していく様子を、中年刑事は怒りをにじませながら見つめるしかないというひどい事態になってしまう。本稿でこれから取り上げる「第65話 マカロニを殺したやつ」がそういった種類の作品である。また同じく後述する「第58話 夜明けの青春」の方は、本来は「中年刑事・ハッピー型」の系譜に当たるお話である。

以上が「不幸な若者」エピソードの類型である。それでは次に、初回からとばしまくったジーパン編が、最後にあまりにもひどすぎる結末を迎えるまでに生み出した、数々の「不幸な若者」エピソードを具体的に見ていこう。

 第53話 「ジーパン刑事登場!」 (監督:高瀬昌弘 脚本:鎌田敏夫)

いつも恨めしそうな表情で高級テニスクラブのコートをのぞく真面目な工員・木村清(19)は、警官から奪った拳銃でテニスクラブの会員に入っているお金持ちのお嬢様を3人ほど撃ち殺してしまう。動機は、「永遠に俺の女にする」ためであった。

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 第55話 「どぶねずみ」 (監督:山本迪夫 脚本:鎌田敏夫)

不幸な若者・明男は、「人間だって人を裏切ることばかり考えているんだ」と自らの心情を吐露し、人間不信のどん底にあった。

無差別殺人を起こすために鉄砲店からライフルを盗み出した明男は、職質をした警官二人を射殺し遊園地に立てこもった。ジーパンは説得を試みるが、その最中に狙撃隊の放った弾丸が明男を見舞う。

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 第58話 「夜明けの青春」 (監督:竹林進 脚本:武田宏一/小川英)

芸能界入りを目指す次郎は、その夢をたたれ挫折し、欲求不満のあまり強盗に入る。そして山村刑事に屋上へ追いつめられ発狂。「こんな紙っぺらのためにさんざんこづき回しやがって…もうどうなってもいい」と叫びながら自分の頭を拳銃で撃ち抜き、山村刑事を落ち込ませる。

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 第60話 「新宿に朝は来るけれど」 (監督:竹林進 脚本:鴨井達比古/小川英)

大地震におびえ未来に絶望し、神経症的な日々を送っていた地震学者が、交際相手の桃井かおりに刺し殺されてしまった。桃井を犯人とにらんだジーパン刑事は彼女に近づくが、二人は恋仲になる。

やがて、桃井の容疑が固まり、同僚の刑事達が彼女の所にやって来た。桃井が逮捕されるのに耐えきれないジーパンは、突如として走り出し、「うぁ〜ばかやろう〜」と絶叫。公園の芝生の上をごろごろ転げ回るのであった。

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 第65話 「マカロニを殺したやつ」 (監督:山本迪夫 脚本:長野洋/小川英)

気が小さい割にかっとしやすい工員・義男にマカロニ刑事殺害の容疑が浮上し、逮捕状が請求された。さっそく一人で孤独に飲んでいる義男の所に、七曲署の面々が駆けつけるが、義男はチンピラとけんかしたあげく刺し殺された後だった。

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