小説Cの日々（その六）

國府田マリ姉が歳を取らないことにCが気のついたのは、彼が福岡の大学へ通っている時のことであった。秋刀魚の蒲焼きをおかずにして丼飯をかき込んでいたCは、そのアイデアが浮かんだ途端、喉を詰まらせた。

その後も彼の人生に於いて続けられた観察の結果、マリ姉から半径1メートルまでの空間が極めて遅滞した時流によって支配されているという確信にCは至った。マリ姉1メートル半径内では、マリ姉に近接するに従い、乗数倍に時流が停滞して行くと推察されたのだった。

30代に達したCは、帰郷の際、年老いた両親から「いつまでそんな人追いかけているんだい」と問われた。Cは云った。

「マリ姉は人ぢゃないよ。天使だよ」

昼過ぎに起きる。会社へ行く。

夕方頃、Cがたいへん仕合わせそうにゲーム雑誌を読む。

夜十時頃、松屋で書見をしながらカルビ焼き定食を喰う。

夜半過ぎに会社に戻る。

夜明け前に帰る。寝る。

疲弊。夕方に起きる。会社へ出る。

Cがコーヒーを飲みながらパソコンで巨人戦を見る。

Cはその後、鯖の味噌煮とチキンの竜田あげとサラダとご飯を丼で二杯喰う。「全部で\980だった」とつややかな顔で云う。

夜半過ぎ頃に帰る。書見をして寝る。

昼前に起きる。会社へ行く。週末モード。疲弊。

課内のNo1とNo2が暫く不在。No3のCが社内を跳躍してまわる。Cはその後、ハヤシライスと卵焼きとサラダ（計\1420）を喰った。

夜半過ぎに帰る。ギャルゲーを少しやって寝る。

夕方に起きる。会社に出る。

引き続き週末モード。課内は人も疎ら。仕事をしたり書見をしたりする。

夜半過ぎに帰る。ギャルゲーをしてやや悶えて寝る。

昼過ぎに起きる。

映画を二本観た後、クリームシチューを作って食べる。食い過ぎて暫く失神する。

目が覚めた後、ギャルゲーを少しやる。悶える。夜明け前に寝る。

ガガガSPと云うものは、コザック前田が失恋をしなくなった時点でネタが枯渇し始める様な観がある。

昼前に起きて会社へ出る。

Oが「うまそうだネ」とメロンサンド（ホイップクリーム）を見せびらかしにする。その後、「これはうまくないヨ」と喚く。

夜明け前に帰る。ギャルゲーを少しやる。悶える。疲弊。寝る。

昼過ぎに起きる。会社へ行く。

トンカツと豚汁とご飯二杯を喰ったCが「血生臭いよこの肉」と云う。

夜半過ぎに帰る。ギャルゲーをやる。悶え死ぬ。

生活リズムが狂乱的に振動して、一日が疲弊のままに終わる。雪さんたすけてくれ。

昼過ぎに起きる。会社へ行く。

テレビに映し出された鰹に獰猛な食欲を刺激されたCが回転寿司へ行く。

夕方に起きて夜に会社に出るがじめじめして気持ち悪い。ラーメンとチャーシュー丼を喰いに行ったC氏が腹を揺らしながら通り過ぎる。

夜半過ぎに帰る。映画を観て寝る。

投票して夜に会社に行って日が変わる前に帰って映画を観て寝る。

小説Cの日々（その七）

見合いの前夜、正座を強いられた彼は、大層厳粛な顔つきをした母親と向かい合う羽目に陥っていた。彼女の手には國府田マリ姉のサードアルバムが握られていた。隠蔽の極みにあった其れが母親の手中に至った経緯は、Cにとってたいへんなる不可思議であった。

腹が減ったので同僚Kに何かないかと尋ねると「便秘の薬ならある」と云う。

カレーを喰って寝る。

夜カレーを喰う。

「別に女体を抱いたことがなくても、濡れ場は描きうると団鬼六が云っていた」とOが語る。

朝カレーを喰う。

夜カレーを喰う。

「三十も越えれば自慰に精神的安らぎを求めることは出来ない」とOが云うのを聞く。

朝に寝る。

「呪われてしまったボクらはね、死ぬまでその性の大海を泳ぎ続けなければならないのだヨ」

Cが自販機の前でペプシを飲む。

Oが19歳の時つき合っていた女性のことを夜中に思い出す。

帰る。一週間ぶりに布団で寝る。

「男は汚い。綺麗な女性だけをボクはずっと見ていたいんだ」

Oは淫欲の大海を泳ぎ続けなければ死んでしまう“シャーク”な男であった。数年前、裏ビデオの入手ルートを失ってしまった彼の日々は、不安との戦い続けだった。だが、そんな非日常に終焉の兆しが現れたことを彼はもう知っている。裏ビデオコレクターの友人Kによって新ルートがもたらされたのである。

Oは男の汚らわしい身体を嫌っていた。鑑賞としてのセックスは女性同士でなければならぬと固く信じていた。しかし無念なことに、Oのコレクションには洋物しかない。新ルートの登場によって未来の開ける心持ちにあったOは、日本人物の同性愛をキミは持っているかネとKに尋ねた。Kは満面の笑みで其の問いを肯定した。

Kの持ってきたビデオのパッケージを見るまで、Oには知る由もなかった。Kが男色家で同性という言葉がかれにとっては違うものを意味していたことを。

Cは昨夜イタリアンを食った。

疲弊。

一日1000kcal以下の栄養摂取なのにCの腹はへこまない。

Oの靴下が臭い。

「ハーマイオニーはかわゆいよネ。ボクもホグワーツに入りたいヨ」

昨晩、Cはねぎコーンラーメンと麦飯と煮卵を喰った。

多忙。

Oが結婚願望に身を焦がす。

疲弊する。